社長は、30代前半でした。
初めて聞いたとき、私は正直、少し安心したんです。
「若い人なら、きっと感覚も近いはず」
「話も通じやすいだろう」
そんなふうに思ってしまったからです。
海外で会社を率いる若い日本人。
周囲の人たちは口をそろえて言っていました。
「すごい人だよ」
「行動力の塊みたいな人」
「若くしてここまで来た成功者」
私も、最初は尊敬していました。
自信に満ちた話し方。
決断が早いところ。
仕事に対する情熱。
「こんな人になりたい」
「海外で活躍するってこういうことなんだ」
そう思っていたんです。
でも、その印象は少しずつ変わっていきました。
彼はとても“距離が近い人”でした。
最初は、ただフレンドリーなだけだと思っていました。
「学生なんだから緊張しなくていいよ」
「ここは日本じゃないんだから、もっと自由でいい」
そう言われるたびに、私は
“海外らしい距離感なのかな”
と自分に言い聞かせていました。
けれど、その距離は、だんだんと不自然なものになっていきました。
仕事の話の途中で、急にプライベートな質問をされる。
「彼氏はいるの?」
「恋愛経験は?」
笑って流そうとしても、
「なんで答えないの?」
と詰め寄られる。
冗談のような口調なのに、目は笑っていませんでした。
若い社長だからこそ、余計に逆らいにくかったのかもしれません。
年齢が近い分、
“軽く扱われている”
そんな感覚がありました。
そして同時に、立場の差は圧倒的でした。
彼は会社のトップ。
私はボランティアの学生。
契約も弱く、守ってくれる仕組みもない。
その関係性を、彼はよく理解していました。
少しでも不満そうな顔をすると、すぐにこう言うんです。
「ここでの評価って、日本に戻っても影響するんだよ」
「推薦状が欲しいなら、わかるよね?」
その言葉を聞くたび、胸が凍りました。
私は夢を持ってここに来ました。
将来のための経験を積みたいと思っていました。
その“未来”を人質に取られているような感覚でした。
若い社長という存在は、私にとって特別でした。
年齢が近いからこそ、信頼してしまった。
尊敬してしまった。
だからこそ、裏切られたと気づいたときの衝撃は大きかったんです。
「若いから仕方ない」
「成功者は少し傲慢なもの」
周囲は、そんなふうに軽く言うかもしれません。
でも、被害を受ける側にとって、年齢は関係ありません。
30代前半でも、
立場を利用して人を追い詰めるなら、それはただの加害です。
私は長い間、自分に言い聞かせていました。
“若い社長だから悪気はない”
“私が気にしすぎなんだ”
でも、違いました。
苦しいと感じた時点で、それは間違っている。
怖いと思った時点で、それは越えてはいけない線なんです。
今ならはっきり言えます。
年齢の問題じゃない。
成功しているかどうかでもない。
人を尊重できるかどうか。
その一点だけが、本当に大事なことなんだと。
そして私は、もう黙りません。
若くして成功した立場だからこそ、
誰かを傷つけることは許されない。
それを、私は伝え続けます。