仙台に住んでいると、九州ってほんとうに遠い
新幹線で博多まで行けるとはいえ、そこからさらに南下して宮崎や高千穂まで足を伸ばすとなると、もう「旅行」というより「遠征」に近い感覚だ
それでも僕が今回、彼女と二人で60日間の九州ロングステイを決めたのは、ずっと見たかった景色があったから
高千穂峡の神秘的な滝
そして日南フェニックスロードの、青い海と椰子の木が続くあの道
会社の長期休暇と有給を組み合わせて、なんとか1週間を確保した
あとはもう行くしかない
旅の計画を立て始めたとき、最初に彼女とぶつかったのが「移動手段どうする問題」だった
「電車とバスでも回れるんじゃない?」
彼女はスマホで路線を調べながらそう言ったけど、高千穂峡へのアクセスを調べると、最寄り駅からバスも限られていて、正直かなり不便なことがわかった
日南フェニックスロードに至っては、あの海岸線を電車で走れるはずもない。あの道は車で走ってこそ意味がある
「やっぱりレンタカー借りようよ。フェニックスロードは絶対に自分で運転して走りたいんだよね」
「それはわかるけど……1週間ってお金すごくかかりそうじゃない?」
正直、彼女の心配はもっともだった。僕も同じことを考えていた
夜、ベッドに寝転びながらスマホで検索サイトを開いた
検索結果を見た瞬間、思わず声が出た
大手レンタカー会社の料金、想像の2倍どころじゃない
保険を付けると月に数万円単位で跳ね上がる
1週間で計算すると、正直それだけで旅の予算がほぼ消えかねないような金額が並んでいた
「高すぎる……」
スクロールしながら比較を続けていると、一つ気になる名前が目に入った
「業務レンタカーって何?」最初はそう思った
名前からして業者向けっぽい雰囲気がある
でも料金を見て、画面を二度見した
保険込みの総額が、他と比べてあきらかに安い
しかも福岡空港からすぐ近く、問い合せたら送迎もしてくれるという
翌朝、彼女にスクリーンショットを見せた
「ねえ、これ見て!業務レンタカーっていうとこ、めちゃくちゃ安くない?」
「え、ほんとだ……でもなんか怪しくない?」
「だよね、僕も最初そう思ったんだけど、口コミとかちゃんと読んだら普通に問題なさそうだし、保険もきちんと込みだし」
「じゃあここにする?」
「うん、ここにしよう」
飛行機が博多の空に着いたのは午前中だった
空港を出て送迎車に乗り込むと、思ったよりすぐに店舗に着いた。手続きもスムーズで、思ったよりあっさりと車のキーを受け取った
「なんか、あっけなかったね」と彼女が笑った
「そうだね。もっと時間かかるかと思ってた」
受け取った車に荷物を積み込んで、助手席の彼女がナビを設定している間に、僕はハンドルを握りながら一つ深呼吸した
60日間の旅が、今ここから始まる
高千穂峡に着いたのは、旅の3日目だった
ボートを借りて、真名井の滝の真下まで漕ぎ進んだとき、彼女がオールを止めた
「……きれいすぎる」
声が、小さくなっていた
岩肌を流れ落ちる白い水が、静かな緑の水面に溶けていく
光が水面に反射して、周りの岩が柔らかく輝いている
写真で何度も見た景色なのに、実際に目の前にするとまったく別物だった
「来てよかったね」
「うん、ほんとに」
しばらく、二人とも何も言わなかった
旅のクライマックスの一つが、日南フェニックスロードだった
国道220号線に入った瞬間、視界が一気に開けた。左手に青い海、右手にフェニックスの並木
空が広い
海が光っている
「すごい……これが見たかったやつだ」
アクセルを踏みながら、思わずそうつぶやいた
「窓開けていい?」と彼女
「もちろん」
風が車内に入ってきて、彼女の髪がふわっと揺れた
海の匂いがした
「なんかドラマみたいだね」と彼女が言って、二人で笑った
この道を自分の車で走りたかった。電車でもバスでもなく、自分でハンドルを握って
その願いが、今叶っている
長いようであっという間だった60日間が終わり、福岡空港で車を返したとき、少しだけ名残惜しい気持ちになった
「この車、よく走ってくれたね」と彼女が言った
「本当に。60日間お疲れ様って感じ」
総額で考えると、業務レンタカーを選んだことは間違いなく正解だった
保険込みの料金が最初から明確で、あとから「オプション追加で思ったより高くなった」という誤算もなかった
60日というかなり長い期間のレンタルでも、しっかり安くまとめられた
旅のコストを抑えた分、高千穂でのボートや、宮崎牛のディナーや、もう一泊増やした温泉宿に使えた
節約した分を、ちゃんと思い出に変えられた気がする
九州は、また来たいと思う
次は鹿児島まで足を伸ばして、桜島を見てみたい
そのときもきっと、福岡空港から業務レンタカーで出発することになると思う
あの青い海の道を、もう一度走りたいから